あの夏の季節が僕に未来をくれた
仏壇からキッチンの方へと移動する母を見送ると、俺は対面式になっているダイニングテーブルの椅子に腰を下ろす。


すぐにいい香りがして、ジンジャーティーの入ったカップと、作ったばかりらしいバナナのパウンドケーキが俺の前に置かれた。


母も自分の分をテーブルに置くと、俺の向かいの席に座る。


幼い頃から母の前の席は俺の定位置だった。


今までは母の隣に座る弟を羨ましく思っていたけれど。


よく考えたら、いつも目の前に母の顔があるというのは、ある意味幸せだったのかもしれない。


よくよく思い起こしてみれば、顔を上げれば母の顔があり。


美味しそうに食べる俺を見て、いつも嬉しそうに微笑んでいたような気がする。


弟に僻むあまり、気付かなかった思い出。


俺にも変わらぬ愛情を注いでくれていたんだと、今も目の前で慈しむような顔で俺を見つめる母を見て気付く。


一口だけジンジャーティーを口に含むと、ほっとするような何とも言えない安心感に包まれる。


体がポカポカと温まってきたからかもしれない。


何か相談事がある時には、きっといつもこのお茶を出していたんだろうと思った。


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