あの夏の季節が僕に未来をくれた
ずっと出来なかったあいつの話を、こうして家族で語れるようになったのは、大きな進歩なんだろう。


こうして確実にあいつは過去の人となり、俺たちの記憶の中で思い出に変わっていく。


それは残された者たちが、これから前を向いて歩いていくための大事なステップであり。


あいつに後ろ髪を引かせないための防御でもあるんだと、俺は信じていた。ふと、先生の顔が浮かんだ。


先生は俺たちのように、あいつのことをきちんと見送ってやれたんだろうか?


思い出に変えることができたんだろうか?


あの日、保健室で見た先生の顔は泣き腫らしたようなあとがあり、俺と……いや、あいつと接触したのは明らかだった。


きっと弟が先生に伝えたかったことは一つだ。


俺を忘れて幸せになれとか、そんなとこだろう。


人が死んでそれを思い出に変えるまでには、それなりの時間が必要なわけで……


そう簡単には成し遂げられるもんじゃない。


ましてやそれが恋した相手なら、尚更難しいに決まってる。


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