あの夏の季節が僕に未来をくれた
「……あの子、好きな人とかいたのかしらね?」


ふいに母がそう呟いた。


「そりゃ、17歳にもなれば、好きな女の一人や二人いただろう?」


父がそれを受けてそう答える。


「でも、ちゃんと恋愛出来たのかなって……

母親としては…そういう経験もちゃんとしたのかなって……

少しだけそれが心残りで……

あの子はそういう話、一切話さなかったから」


少しだけ悲しそうな顔をしてそう言った母に、父はフッと呆れたような笑みを漏らした。


「雅紀はどうなんだよ?」


「「えっ?」」


俺の名前が呼ばれたことに驚いて、母と同時にそう聞き返す。


でもそれは俺に向けられたものじゃなくて、母に向けられたものだった。


「雅紀はお前にそういう話、するのか?」


しないだろ?と答えが分かってるような問いかけをしながら、父は母の返事を待った。


母はそういえばそうね?と納得したように笑って、俺の方をチラリと見る。


「よく考えたら、雅紀もそういうこと、言ってくれたことないわよね?」

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