あの夏の季節が僕に未来をくれた
――――――…
――――…
――…


「大変でしたね?青木先生」


診察が終わった頃、看護師の女性にそう声をかけられた。


あの母親のことを言ってるのは聞かなくてもわかる。


「いや、まあいつものことだから」


苦笑いしながらそう言うと、彼女も納得したように呆れた顔をする。


それから、あっと思い出したように慌てたように言った。


「さっき、診察中にK病院の小児科の佐伯先生からお電話がありました

折り返しこちらからかけるように伝えましたので、お願いできますか?」


「あぁ、わかった
ありがとう

これからかけてみるよ」


看護師が会釈をして診察室から出ていくのを見届けてから、俺は受話器に手を伸ばした。


医局の直通番号を押すと、相手が出るのを待つ。


プルルルル……プルルルル……プルルルル……カチャ


「はい、K病院医局です」


「あ、すみません

先ほどお電話頂きました、S病院小児精神科の青木と申しますが、小児科の佐伯先生いらっしゃいますか?」


「あぁ、青木?

俺、俺!悪かったな」


「なんだ、佐伯だったのかよ

気取って損した」


「はぁ?損したってことないだろ?

失礼なやつだなぁ」


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