あの夏の季節が僕に未来をくれた
佐伯は自分の目標だった主治医の先生を目指して小児科の道に進んでいた。


無事お互いストレートで卒業し、国家試験も一発で合格した。


俺たちは切磋琢磨しながら、お互いの夢に向かって頑張ったんだ。


研修期間を経て、今年ようやく一人前の医者になり、今に至る。


高校を卒業してから、もう8年の月日が流れていた。


夢を叶えるために一生懸命だった俺は、あの日父に言われたようにはなれなくて……


たくさん恋愛するなんてことも、彼女を家に連れてくなんてこともなかった。


佐伯も俺とまったく同じで、いい男が揃いも揃って女には縁がない8年を過ごしたことになる。


「そういえばさ」


「ん?」


「明日、休みとったのか?」


「あぁ、今年も休み取れたよ」


「そっか、俺も一緒に行こうか?」


「いや、いい……

ありがとう、大丈夫

1人で行きたいんだ」


毎年、この時期になると佐伯は必ずこう言ってくれる。


弟の新盆が過ぎた新学期の始めごろ、俺は佐伯に全てを話していた。


弟がいたことも……


自殺したことも……


俺たち家族がなかなか立ち直れなかったことも……

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