あの夏の季節が僕に未来をくれた
大学に受かった時も、国家試験に受かった時も、ここに来てあいつに報告してきた。


一人立ちして医師としてやっていけるようになった今、今度はお前にどんな報告するんだろうな?


彼女が出来たとか……


結婚するんだとか……


子供が生まれるとか……


そんなことだろうか?


綺麗に拭き終えて、持ってきた花を生ける。


仏事用の花じゃなくて、あいつによく似合う、すこし華美な色とりどりの花。


最後に線香を横向きに置くと、白い煙が空に向かって立ち昇った。


目を瞑り、そっと手を合わせる。


(また来年も来るから)


心の中でそう思いながら、しばらくそこに佇んだ。


どきどき吹く風が、薄着の俺の肌を撫でていく。


ブルッと体を震わせて、そろそろ帰ろうかと思ったとき、遠くから弟の名前を呼ぶ声が聞こえた気がした。


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