あの夏の季節が僕に未来をくれた
「優紀!こら、待ちなさい」


やはり弟と同じ名前だ。


振り返ってみると、三歳くらいの男の子がこちらに走ってくるのが見えた。


その後を追うように走るのは母親だろうか?


「……っ!」


その時、俺の目の前で男の子が派手に転んだ。


駆け寄って抱き起こすと、膝に血が滲んでいる。

俺は今にも泣き出しそうに顔を歪めるその子の頭を優しく撫でた。


「えらいぞ、よく我慢したね?」


男の子はそう言われて、唇を噛み締めて小さく頷く。


こんなに小さくても、ちゃんと男なんだなとフッと笑みがこぼれた。


「優紀!……あ、すみません

ありがとうございます」


母親がようやく追い付いて俺にそう礼を言いながら頭を下げる。


「いえ、膝を擦りむいてるみたいですけど、泣かなかったですよ?

強い子ですね?」


もう一度、頭をくしゃっと撫でながらそう言えば、男の子は嬉しそうに笑った。


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