あの夏の季節が僕に未来をくれた
後で聞いたら、紙袋を片手にラリっている危ないヤツだと思われていたようで。


俺は苦笑するしかなかったけれど。


「ちょっと!大丈夫?」


どのくらい経った頃だったろう?


そう頭の上から声をかけられた。


ふぅ~と一度深呼吸をしてから、俺はその声の方に顔を上げる。


「――っ!!」


そこにはずっと逢いたくて堪らなかった、彼女の顔があった。


「あなた……」


先生もまさか俺だったとは思わなかったようで、紙袋をチラッと見やると、事情を察したように俺を優しく立たせた。


「着いてきて?」


何も聞かずにそれだけ言うと、俺の肩を抱きながら門を潜る。


あの試験の時以来のN高校の校舎に、制服の違う俺が入っていくことが少しだけ気まずく感じる。


けれどそんな俺の気持ちなんかお構いなしに、先生はずんずんと校舎の中に進んでいく。


周りの生徒たちが、すれ違うたび怪訝な顔をしながらも、先生さようなら、と声をかけてきた。


先生は何事もなかったような顔で、笑顔を振り撒きながらそれに応えている。


まるで俺を荷物か何かのように存在を消して。


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