鐘つき聖堂の魔女
「けれど街の住人から得られる情報には限りがありますからね。やはり宮殿に潜り込めると良いのですが…」
ライルはノーランドの言葉にリーシャが浮かび、一瞬迷った。
しかし、浮かんできた考えを振り切るように小さく舌打ちをし、口を開く。
「…それなら俺にあてがある」
渋々といった様子で呟いたライルが乗り気でないことは誰が見ても明らかだった。
「こちらに来た時に助けてくれたお人ですか?確か宮殿に勤めているという」
「あぁ、そうだ」
様子を窺うような声色のノーランドにライルは淡々とそう返す。
ドナが余計なことを伝えていなければノーランドはリーシャをライルの恩人としか認識していない。
そのため恩人を利用するような真似をするのは気が引けることに同情してくれたのだろう。それ以上追及するはしなかった。
主を思うその姿にライルは自らの甘い考え捨て、リーシャを利用することを決断した。
そもそもリーシャが魔女だと分かり、一緒に暮らすようになったのはリーシャを利用して宮殿内の情報を得るためだ。
ただ立ち寄っただけの国で、偶然出逢った魔女を利用することに何の躊躇いがある。
ライルは心の底にある小さなしこりを抑えるように自分に言い聞かせた。
「ヴォルヴィア山に兵士が派遣されて警備が薄くなっている今がチャンスだ。古の魔女の手掛かりを直接掴むために宮殿に忍び込むぞ」
ライルの決断にすぐさま反応したのはドナだ。
「それにはまずは宮殿内の地図が要りますね」
「では、早々に作戦を立てましょう」
ノーランドとドナが張り切る中、ライルはひとり小さく溜息をつく。
こうしてライル一行がドルネイ帝国の宮殿へ忍び込むための暗躍が始まった。