鐘つき聖堂の魔女
チリンとオルナティブのドアベルが鳴ったのはそれから暫くしてのことだった。
モリアの都立図書館から地図を入手し、各々が収集した情報を持ち合い、守衛の位置や憲兵の巡回の動きを地図上に記して作戦を立てていた三人はドアベルの音に顔を上げる。
「おーまだやってたのか」
そういって店に入ってきたのはオルナティブの店主ヒュクスだ。
両手いっぱいに材料が入った紙袋を抱えたヒュクスは足で器用にドアを開けて入ってきた。
「三人とも混つめた顔してるな。休憩がてら飯でもどうだ?」
「いいですね、いただきます」
ライルがいない間にノーランドとは挨拶を済ませていたのか、ノーランドとヒュクスは初対面ではない様子だった。
ドナとヒュクスは相変わらずで、今日はヒュクスが足でドアを開けて入ってきたことで口論になっている。
ヒュクスが帰ってきたことで賑やかになったオルナティブは先ほどまでの張りつめた緊張感はなかった。
ライルも二人の賑やかな口論とその間を取り持つノーランドの姿を見ながら肩の力を抜いた。
同時に張りつめた空気がなくなったからか、一気に空腹感が押し寄せた。
そして、今日の晩御飯は何にしようかと思ったとき、ふと我に返ったように思い出す。
「今何時だ?」
切羽詰まったライルの声にヒュクスの足癖について口論していた三人の声が止み、何事かとライルの方を振り返る。
ぽかんと呆けた表情をして黙り込む時間ですら苛立ちを感じるライルはもう一度口を開く。
「今何時だと聞いている」
あまりの迫力にノーランドが反射的に我に返り、胸ポケットから懐中時計を取り出す。