鐘つき聖堂の魔女
「ジャン、おじいさんたちもそういっていることだし。私の席を譲るから」
「けど…」
男たちが勝ち誇った笑みを浮かべ、ジャンが悔しそうに唇を噛みしめた時だった。
「おいおいなんだこの人だかりは。何をそんなに騒いでるんだ」
人々の喧騒の中に響いた声に、リーシャの喉がひゅっと乾いた音を鳴らせた。
金縛りにあったかのように体を強張らせ、張り裂けんばかりの心臓の音を感じながら、すべての感覚を背中に集める。
「ロネガンさん」
男たちが口にしたその名にリーシャの心音が更に早鐘を打ち、身を強張らせた。
「いやね、このガキが俺らの席がこいつらから奪ったなんて嘘を吐くからシメてやってたんですよ」
「くだらないことで騒ぎ立てるな。席なら他にもあるだろ」
ロネガンは至極面倒そうにそういって老夫婦に近づく。
「こいつらがすみませんね。テーブルは使ってください」
粗野で乱暴な男たちとは違う紳士的な口調に老夫婦は戸惑いながらも受け入れる。
「君たちもすまなかったね。良ければお詫びに何かおごらせてくれ」
そういってリーシャとジャンの前に回ったロネガンは身なりも正しく紳士的な笑みを浮かべた。
しかし、ロネガンはリーシャを見て首をひねる。
リーシャは体を舐め回すように絡みつく視線を避けるように身をよじらせ、顔を俯かせた。
「お詫びなど結構ですので…。行きましょう、ジャン」
早口で答えたリーシャはジャンの腕を取り、その場から離れようとした。
しかし、リーシャの顔をじっと見ていたロネガンが何かを思い出したかのようにハッと顔を上げ、その場を離れようとしたリーシャの腕を掴んだ。
突然腕を掴まれたリーシャはビクリと体を揺らし、怯えた瞳で振り返る。
するとロネガンはリーシャの怯えた様子に確信し、口の端を持ち上げてニヤリと笑った。