鐘つき聖堂の魔女
この世界、レイアードには人間だけではなく、獣人、精霊などの様々な種が共存している。
中でも人間に一番近いとされる獣人はその名の通り人と獣が交って生まれた人種であり、その遺伝子の構造上、人間よりも優位な種と位置付けられてきた。
しかし、優位種にもかかわらず山奥に住処を追いやられたのは、人口が人間に比べ圧倒的に少なく、幾度もあった衝突に獣人が敗れてきた歴史的背景があったためだ。
ドルネイ帝国も街の治安維持と国民の安全確保というもっともらしい名目を掲げて、獣人の入国を拒否している。
「しかし獣人ごときが消魔石を守る番人と対等に渡り合える力を持っているでしょうか」
ヴァイスの反論はもっともだ。
消魔石がなぜ希少であるか、それは入山規制があるからだけではない。
入山したとしても無事に消魔石を手に入れることができる可能性は低いからだ。
本来、消魔石とはその力の強さに比例して消魔石を守る番人がいる。
番人とは魔獣や聖獣のことを指し、消魔石を人間のもとから遠ざけるために山奥で守っている。
「いくら獣人といえど強力な番人どもに対抗できるなどとは考えにくいな。いずれにせよ今は威力の小さい消魔石でも手に入れたいところだ」
「我が国のホルン山の鉱石量は年々減少していて悩みの種でしたからね。そんなおいしい話をネイアノールに先を越されるわけにはいきませんな」
「あぁ、よろしく頼むぞヴァイス大佐」
一連の会話を聞いていたリーシャは不安に駆られていた。
もしロードメロイがより多くの消魔石を手に入れたとすると、それをどう使うかはドルネイ帝国を築き上げた歴史が物語っている。