鐘つき聖堂の魔女
そのためには、昨日のようなイレギュラーな客人はやはり迎え入れるべきではないのだ。
リーシャは夕日を見つめながら再確認し、気合を入れるように「よし」と呟いて立ち上がった。
鐘つき聖堂を出て裏路地に逸れたところでローブを脱ぎ、指輪の力で髪と瞳をよそ行きの仕様に変える。
そしてリーシャは夕日が沈み、魔女の灯りがともされた中心街へ意気揚々と出て行った。
リーシャが中心街を歩く目的はもっぱらレットのご飯の買い出しだ。
一応、帝国に使える魔女としてそれ相応の給与はもらっているのだが、リーシャの場合自分のことに頓着がないため、そのほとんどがレットのご飯に消えていく。
(今日は何にしようかな…)
リーシャが魚屋の店先に並んでいた魚を前に悩んでいた時だった。
「お兄さん、寄ってかない?」
近くから艶やかな女の声が聞こえた。
その声を聞きながらリーシャは、気づかぬうちにモリアの西部まで来てしまったな、と少々後悔した。
モリアの西部は所謂娼館が多く立ち並ぶ界隈で、女のリーシャがどうこうするわけでもないのだが、年頃の女性から母親の年齢ほどの女性が体を売るのに男を呼び止めるのを見ていい気はしなかった。