鐘つき聖堂の魔女
どうしても行けない時には風の魔法で鐘を揺らしているため、モリアに住む人たちは皆、鐘つき聖堂のことを“魔女の住む聖堂”と噂している。
そのため、普段ドルネイのいち市民として暮らしているリーシャは魔女として大聖堂に来るしかないのだ。
ゴーン、ゴーン…――――
リーシャは夕暮れ時、この鐘を聞きながら夕日に染まるモリアの家々を見るのが好きだった。
街中の喧騒から逃れ、塔の上は静かで落ち着いて過ごすことができるからかもしれない。
髪と瞳の色を変えて生活していると自分が人間になったように錯覚するが、ふとした綻びで築き上げてきた生活があっという間に崩れ去る。
ちょっとした油断が何度リーシャを追い詰めたことか。
実際、リーシャは先帝に見初められて帝国お抱えの魔女に就いてから十五年間で五回も住まいを移転していた。
(レットと一緒に雨が降る中、新しい家を求めて歩きまわったこともあったっけ)
最初の五年間は一人ぼっちだったけど、十三歳の頃レットを拾った時からは不思議と泣き虫も卒業した。
世の中の理不尽さや一人ぼっちの寂しさを嘆くよりも、大切な家族を守りたいという意識が芽生えたからこそ強くなれたのかもしれない。
今の場所に移ってきて五年になるが、深い森の中にひっそりとたたずむ家はとても気に入っている。
できるならこのままレットとあの場所で平穏な生活を送りたい。