鐘つき聖堂の魔女
「じゃぁ、俺はこれで」
「そ、そう言わないで。お兄さんならまけとくから、ね?」
早々に立ち去ろうとするライルを慌てて引き留めようとする娼婦。余程ライルに未練があるらしい。
しかし、残念ながらライルには娼婦に渡せる金など一銭もないことをリーシャは知っている。
「今はまけられても君を買う金はないよ」
「ならお兄さんが出せるだけでいいからさ。正直言うとお兄さん私のタイプなのよ。お兄さんが相手してくれるなら言い値でいいわよ?」
いよいよしつこい娼婦にライルも眉を下げてだんだんと困り顔になる。
腕に巻きつくようにしだれかかる娼婦をどう引き離そうかと考えていたのだろうか。
ふと、視線を上げたライルとしっかり目が合ってしまった。
リーシャがまずいと思った時にはすでに遅く、ライルはパっと明るい表情になった。
「リーシャ!」
ライルの声とともに周りで様子をうかがっていた野次馬と娼婦の視線がリーシャに集まる。
「どこに行っていたんだ。探したよリーシャ」
「え…あのっ…」
娼婦の腕をやんわりと剥がし、駆け寄ったライルはリーシャを引き寄せる。
あまりにも自然に引き寄せられ、背中に回った手にリーシャの体は強張った。
引きつった表情をしているはずのリーシャに気付いているはずだが、ライルは逃げ腰のリーシャを更に引き寄せた。