鐘つき聖堂の魔女


「あぁ、猫のご飯を買ってきてくれたんだね、ありがとう」

整った顔が象る笑みはまるで絵本の中から出てきた王子様のようで甘いマスクと相まって眩しいことこの上ない。

ライルの蕩ける様な笑みに、周りで見守っていた女性たちから悩ましい溜息がこぼれた。

はたから見れば恋人のような二人に、娼婦も一瞬呆気にとられる。

しかし、すぐにその表情は不機嫌なものに変わり、目をとがらせる。



「女連れだったの。そうならそうと早くいいなさいよ。女がいる男をひっかけるほど私も暇じゃないの」

ライルを誘った時の艶やかな声はいずこへ、泣く子も黙るような冷たい声でそう言い放って、娼婦は娼館街の奥へ戻っていった。

娼婦の背が見えなくなったところで、ライルが深い溜息を吐く。




「ドルネイの女性は積極的なんだな」

ドルネイの女性がどうこうというよりは相手がライルだったからではないかとリーシャは思うが、リーシャは今それどころではなかった。

ライルに触れられた手から首まで肌を赤く染め上げ、原因不明の動機に襲われている最中だった。

混乱の中で、ただ一つわかることは、この原因不明の動機はライルに触れられたからだということ。

また魔女ゆえの拒絶反応かと思ったが、今朝手を握られた時の比ではなかった。

首根っこをつままれた猫のようにじっと動かないリーシャにライルは気づかれないように微笑み、そっとリーシャから離れる。






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