鐘つき聖堂の魔女
「また会ったね、リーシャ」
ライルの言葉に我に返ったリーシャは弾かれた様に顔を上げた。
「咄嗟の演技に付き合ってくれて助かったよ」
“演技”といわれ、バクバクとはち切れそうだった心臓が落ち着き始める。
演技も何もリーシャはただ動けなかっただけだということは言わないことにした。
「も、もっと強く断った方がいいですよ。あんな言い方じゃ断ってないと一緒です」
「あれでも拒否したつもりなんだが」
「あんな時は立ち止っちゃだめです。心を鬼にして無言で立ち去らないと」
「俺は昔から女性の扱いには煩く育てられたから無下には出来ないんだよ」
へらっと笑いながらそう答えたライルに、リーシャは溜息まじりに「そうですか」というしかなかった。
「ドルネイ帝国に来てから散々なことばかりですね」
こんな皮肉にも笑いながら「そうだな」と返すのだ。
きっとライルは自身が言うとおり、根っからのフェミニストなのだろう。
そうでなければ娼婦を相手にあんなに丁寧に断ったりしない。
「ところで働きどころは見つかったんですか?」
「あぁお陰様で」
どうせまだ見つかっていないだろうと思っていただけに返ってきた言葉には驚いた。
「中心街の飲み屋で雇ってもらえることになった」
「よく見つかりましたね。最近は不景気だからっていって雇い入れ数も減ってきてるのに」
「景気が悪くてもお金は流れるところで流れているからね」
そういって何ともないかのごとく笑うライルにリーシャは呆気にとられた。