鐘つき聖堂の魔女
心配していたライルは既に起きており、台所に立って何かを作っている。
ライルの傍で銀の皿を咥えていたレットがカーテンを開けた音に反応してこちらを振り返った。
そして、にゃぁと可愛い声で鳴いた拍子にカタンと皿を落とし、こちらへ駆けてくる。
それに気付いたライルがリーシャの方を振り返った。
「おはよう」
振り向きざまに向けられた笑顔が爽やかで気恥ずかしかった。
「おはようございます。朝、早いんですね」
「これも習慣のうちの一つかな。朝ごはん、もうすぐできるから着替えておいで」
そう言えば家事全般はライルがするんだっけとリーシャは思い出しながらクローゼットに向かう。
しかし、この部屋には仕切りというものがない。
ひとつ屋根の下に男女が住むのだ。昨夜は安易に同居を許したが、これからの生活について話し合う必要がある。
リーシャはそう考えながら着替えの服を持ってこの家で唯一プライベートスペースが確立されている浴室に向かった。
そして二着の服を広げて思う。仕事柄しょうがないが黒中心の衣服が多いことも問題だ。
魔女の象徴とされる黒を好むなど一般的に見れば“おかしな人”と認識されてしまうのだから。
外ゆきの服もあるが二、三着しかなく、グリンダだけでなくジャンにまで呆れられているほどだ。
(服も買いに行かなきゃな…)
リーシャは外ゆきの服に着替え、もう一方の黒い衣服を丸めて籠に入れて浴室を出た。