鐘つき聖堂の魔女
「…………から」
「え?」
「そもそも作り方…分からないから」
言葉に詰まりながら伝えられた理由にライルは目を丸くする。
「分からないって全く?」
リーシャは頷きながらやはり言いたくなかったと顔を赤くしながら思った。
「料理に限ってはやらないんじゃなくて出来ないの。二十三にもなる女が料理のひとつもできないなんて恥ずかしいでしょう?」
「いや、そんなことは思わないけど、母親から教えてもらわなかった?」
ライルはそう口にした後、しまったという顔をした。
見るからに一人と一匹の暮らしぶりで、父親や母親、兄弟の影はないし、生活感もないから当然のことだろう。
理由を言おうと思えば言えるのだが、説明するには少し複雑な事情があった。
ライルも秘密にしていることはありそうだし、ここは伏せておきたい。
「訳あって物心つく前から別々に暮らしてるの。親戚もいないし、教えてもらえるような人いなくて」
「そっか。じゃぁ久しぶりの朝食ってわけか」
ライルは暗黙の了解だと心得ているのか、それ以上深く追及してこなかった。
きっとこちらの事情を聞かない代わりにライルの事情も深くは追及しないでほしいということだとリーシャは判断した。
「俺が居候させてもらう間はちゃんと食べてもらうから。けど、さっきの口ぶりからするとリーシャの食生活はかなり乱れてそうだね。この中で何か嫌いなものはある?」
ライルの問いに「これ…」といいにくそうにリーシャが指差したのはサラダだった。