鐘つき聖堂の魔女


「リーシャ、久しぶりじゃの」

「体調は良いんですか?」

「あぁ、もう良い。リーシャの薬のおかげで早う治った」

笑みをかたどった口元は臍あたりまで伸びた真っ白の髭に隠されていたが、リーシャにはオリバーが喜んでくれていることを感じ取った。



「それよりもお前さん昨日の軍事会議に大遅刻してきたようじゃな。陛下が甘い処置をしたもんじゃからアリエラが荒れておった」

怒るというよりも茶化すような口ぶりでそう言ったオリバーに乾いた笑みが浮かぶ。

昨日ロードメロイが窘めた時はしおらしく引いたが、やはり腹の虫は治まっていなかったらしい。

ロードメロイが絡むことでいちいち嫉妬の対象にされるのも困ったものだ。




「わしもなるべくフォローしてやりたいが、陛下の機嫌はグリリモントの天候よりもうつろいやすいからのう」

オリバーは長い髭を整えるように撫でながらサラリとそう言ってのけた。

その言葉を受け、慌てたのはリーシャを含めその場にいた衛兵や侍女たちだった。




「オリバーさん、こんなところで。側近の耳に入ったら大変です」

「聞いておったとしてもわしには何も言えんじゃろうて。これで陛下がわしを手打ちにしようというならそれもまた運命」

確かに先帝の代からドルネイ帝国軍の元帥に就いているオリバーを簡単には処分しないだろうが、ロードメロイは日に日に側近を固めつつある。

ヴァイスをはじめ権力と力を持ったものが束になれば、いくらオリバーといえど敵わないかもしれない。


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