鐘つき聖堂の魔女
「大体ここはセントルシアでもないんだ。俺の顔を見ただけで身元が知れるなどない」
「しかし…誰がどこで見ているやもしれませんし」
大丈夫だというのに食い下がらないドナにライルは大きな溜息を吐く。
「お前は俺を誰だと思っている。この私が魔女に寝首をかかれてやられるとでも?」
「い、いいえそのようなことは…」
慌てて弁明するドナにライルは厳しい顔から一転、フッと笑みを零す。
からかわれたのだと分かったドナは少し恨めしそうにライルを見据えた。
「案じてくれるのは有難いが、俺はお前のその過剰な警戒心の方が命取りだと思うぞ。そんなことでは例え容姿を変えたとしても一般市民には溶け込めないだろうな」
ドナの扱いを心得ているライルは暗にドナでは任務を遂行できないのではないかと口にする。
すると、ドナはライルの手の内で転がされていることも知らずに、ショックを受けたような顔をして過剰に反応した。
「私は与えられた任務を完璧にまっとうしてみせます!」
言い放った後にドナは我に返るが、ライルは間髪入れずに口を開く。
「なら予定通りお前たちは昼、俺はこのままあの魔女の家に厄介になりつつここで情報を集めるということにしよう」
取り付く島も与えずそういわれてしまえばドナは引くしかなかった。
「分かったならさっさと行くんだ。任務遂行のためにお前も早く働き先を見つけるんだな」
ライルはそういってドナの背中を押し、反論の余地も与えずに店から追い出した。