天使みたいな死神に、恋をした
両手でしっかりと握った鎌は、
『ねえ、切れるの? 切れるの? 切っていいの! でもあなたで大丈夫かしら?』と心弾んでいるようにさえ感じる。
しかし、そんな呑気な鎌とは反対に私はドアの前でしばし考える。
開けて、スパ!
もう、呪文の域だ。
ドアの外には悪い奴だ、躊躇してたらダメ。
一瞬の隙が字のごとく命取りになる。余計なことはいっさいがっさい無し。
外には一体の黒いドロドロ。
ドアを開けて、スパっと。よし、スパっと。これでいくしか方法はない。ここでやっつけなきゃもしかしたら黒いドロドロが黒いドロドロの仲間を呼び集めてしまうかもしれない。
そうなったらもう立ち向かえるどころの話じゃなくなる。
「よし」頷き、気合いを入れて手に力をこめた。
意を決し、思い切ってドアを開けて、そのまま鎌を上から下に振りおろし……
がしかしなんということだ、鎌は振り上げたその場で止まっている。どんなに力を入れても降りてこない。
どうしよう! どうしよう! どうするのー! 怖くて目が開けられない。
私はこの鎌に全てを任せて鎌の好き勝手にかっさばいてもらおうという魂胆だったのに、今の状況だと私が不利なこと間違いない。
恐る恐る目をうっすらと開けて見えるものを見る。やはり目の前には黒く揺れるものが見える。
恐怖で体が動かない。
上のほうは見えないけど、うっすら開いている目の先には黒いローブが見えてるから、私のことを見下ろしながら、喰われる私をいたぶろうとしている黒いドロドロがいるってことで間違いないだろう。
もしや、負けたのか。私、負けたのかな私。
これで最後か。