天使みたいな死神に、恋をした
「どうぞお座り下さい」
声のトーンが怖い。
が、言われるままにそうすると、テーブルの上に置いてある飲みかけの紅茶(もどき)に目を止めた。
が、何も言わない。
「なんで外に出てしまったんでしょうねぇ。私は決して出ないで下さいと強く申しましたけどねえ」
「ほんとにごめんなさい」
「よく考えるとこんなところに誰かが訪ねに来るなんてこと、ないですよねえ、ルーインですら勝手に入ってくるのに」
「そうなんですけど、えーと……ノックされたから? 出ないといけないのかなーって?」疑問形。
「はあ。そこで素直になってどうするんですか。素直になるべきところで素直にならないのに」
「ねえ、今すごく凹むこと言ったの気づいてる? でもほんとごめんてば」
「もう少しであいつに持って行かれる所でした」
「持っていかれる? 喰われるんじなくて?」
「それはそのあとです。持って行かれるのはおおよそ沼の底でしょうね。そこは私もどうしても行かなければならない用事があるかぎりは行きたくない場所でもあるんですよ。なんせあの場所はとことん体力気力を消耗しますので」
「そうなんだ。アンジュラでも行きたくない場所なんだね」
そんなところを考えちゃうと、ぞっわーっと全身に鳥肌。
「そして、いくら私の管轄でも、私でも行けない場所っていうのもあるんですよ。そこに連れて行かれたらもう戻って来れませんし、迎えに行く気もさらさらありません」
「悲しいこと言ってる。しかもアンジュラの管轄にもそんなところがあるなんて知らなかった」
「言ってないんですから当然です」
私、とっても危なかったんじゃん。