天使みたいな死神に、恋をした

「翠さんはどうしてそんなに戻りたいって思うんでしょうか」
 
 前と同じ紅茶(のようなもの)を出してくれながら、そんなことを聞くから思わずアンジュラの目の奥の奥のほうを凝視することになった。

 怖いからすぐにそらす。


 どうして戻りたいかって、そりゃあまだ死にたくないってことが全てだけど、それでもまだ私にはやり残したことがたくさんある。だからかな。

 何をやり残しているのかは言いあらわせないけれど、きっととても大切なことだと思う。
 

「どうして戻りたいかっていうと」

「戻っても辛いことばかりですよ。体もどんどん悪くなるし、不自由になっていく。生きていることは苦痛でしょうし」

「苦痛は感じたことないけど、辛いことばかりでもないよ、楽しいことだってけっこうあるよ」

「結局最後は辛いことになるんですよ」

「それは最後のことでしょ。それまでが大切なんだよ。そこまでいく道のりが大切なの」

「たとえば」

「たとえば、んー、喜怒哀楽が毎日やってきてさ、楽しいって思っていたらどん底に落ちたり、悲しいなって思っていたら誰かが救ってくれてさ、気づいたら笑えていたりとか、とにかく、生きてるといろいろ忙しいんだよ」

「忘れていくのにですか?」

「そ。忘れていくからその次にやってくる新しいことが嬉しく思えるんだよ」

「……やはり、人間て面白いものですね」 


 アンジュラの顔をもう一度真っ正面から見ることになった。

 ん? というように少し大きく目を見開き、首を少し傾けて私の言葉を待っている。



 こんなことを聞いてくる死神に対して、突き詰めて考えちゃいけないような問題にぶちあたった気がした。
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