葉桜~late spring days
体温
 奏太の「ありがとう」という言葉にハッとした。

 今まで、私は何をしてきたんだろう。

 気を使わせてばかりで、私の方ががいつも「ごめん」とか「ありがとう」を言っていた。それだけ、奏太に負担をかけていたのかもしれない。

 奏太の抱えている痛みを、私はどれだけ見ないでいたのだろうか。

 時折考えごとをしているのか、真面目な難しい顔をしているとき、そっとしてあげた方がいいのかなと思って、声をかけたりすることができなかった。

 譜面を見ながら、何度も何度も繰り返し、悩みながら練習しているとき、邪魔したら悪いしと思って、音を控え目に出したりしていた。

 触れたらいけないかなと思って、必要以上踏み込むようなことを聞かずにいた。

 奏太に「ありがとう」って何回言われたことがあっただろうか。回数が何かを計る基準ではないけれども。私は何をしてあげられるのだろうか。何ができると問われても、何がとは言えないけれども。

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