黄昏に香る音色
ゆっくりと、ジャスミンティーを楽しんでいた。

ゆっくりと、音楽に包まれることなんて、長いこと忘れていた。

かかっている音が、

デューク・エリントンであることも気に入った。

ひばりが完コピーしたことで、有名な曲…A列車でいこう。

スキャットが心地よい…。




まどろむ時を、引き裂くように…

いきなり、扉が開いた。

それは、運命の扉だった。

両手に、紙袋を持った二人の男と女…。

男はトランペッターで、

女は、歌手だった…

KK…

ダブルケイと、

二人は名乗った。




唐突に…茶店で、2人は演奏を始めた。

理恵は、衝撃を受けた。

完璧だからこそ

やめた音楽だけど…

あたしには、かけていた。

あたしは足りなかった。

あたしは、一人だった。


CDを、手売りし出したから、

理恵も、買うことにした。

CDを、渡す女の笑顔が…憎らしかった。

あたしより、下手な癖に。

家に帰り、鏡を見た理恵は、

大声で笑った。

そこには、

みすぼらしい女が、一人いた。

(これがあたし!?)

理恵の笑いは、止まらない。

完璧なあたし。

完璧な主婦。

完璧な母親。

そして、

完璧な歌手。

違った…。

あたしは、違ったのよ。

完璧でなければ、

何もできない。

あたしは、

主婦も母親も…。


理恵は、すぐに電話した。

レコード会社に。

会社は喜び、

すぐに、アルバムを作りたいと言ってきた。

理恵は、作るにあたり…使いたいミュージシャンを、指定した。


トランペッター、阿部健司。


完璧な歌手になり、すぐに完璧な主婦…

完璧な母親に、戻るはずだった。

しかし、

2人の天才の出会いは、激しく絡み合い、運命を解けなくした。

もう戻れない程に。


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