黄昏に香る音色
「和美が…明日香ちゃんの学校の音楽祭にでるって!」

カウンターの向こうから、恵子にそのことをきかされた…啓介は、一度座ったカウンターから、立ち上がった。



それは、今朝の朝方だった。

お客が帰り、片付けを終えて、

店内で、くつろいでいた恵子は、煙草をふかしていた。

突然、店の電話が鳴った。

受話器を取ると、和美だった。

和美は一言…

音楽祭にでることを告げると、電話を切った。




啓介は、頭を抱えた。

「この前は、無理やり連れ出したと思ったら…一体どうして…そんなことばかりするんだ」

舌打ちし、啓介は、和美の携帯に電話したが、出ない。

「ったく!何を考えている。和美は、プロなんだぞ。まだ音楽を始めたばかりの子を、なぜ気にする必要がある!」


「あんたと同じ理由よ。啓介」

恵子は、啓介を見た。

「あんたもなぜ、明日香ちゃんが気になるの?」

「それは…」

言葉に詰まる啓介。

恵子は微笑んだ。

「かずちゃんの好きに、させてあげなさい。あの子は、何でも…自分で確認しないと…気がすまないのよ」

「でも…」

啓介は、カウンターに座りなおした。

「あんたはどうなの?」

恵子は、カウンターから啓介の目を見つめた。

啓介は、それにはこたえない。

カウンターから、立ち上がると…ただステージへと向かった。

そして、明かりの消えたステージの上で、サックスを吹き続けた。

恵子は、そんな息子をただ…

カウンターから見守り続けた。


< 286 / 456 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop