黄昏に香る音色
「香月さん!」

帰る明日香を、追いかけてくる男がいた。

明日香が、振り返ると、

その男は、息を切らしながら、走ってくる。

男の名は、川上雅人。

少し長い前髪に、眼鏡が似合う専門学校生。

さっきの飲み会に、参加していた。

「どうしたんですか?」

明日香の問いに、

川上は、息を整えながら、

「さっき…有沢さんから、香月さんが地元に帰ると、きいたから…」

「え?」

「飲み会の挨拶で、いきなり、そう言うと、有沢さん…一気しだして…周りも、泣きながら、一気…。悲しいんだよ」

川上は、やっと落ち着くと、姿勢を正し、明日香を見つめた。

「みんな…香月さんが、この街からいなくなるのが、寂しいだ。香月さんは、みんなのアイドルだから…」

「アイドルだなんて…」

口ごもる明日香に、

川上は詰め寄り、

「だから、行くなよ!ずっと、この街で、活動したらいい!」

「それは…」

「待ってる…男がいるんだって…」

川上は、唇を噛み締めた。

明日香は驚き、言葉が止まる。

「……」

川上の言葉は、止まらなくなる。

両手を広げ、

「だけど!その男は、この2年間!連絡を取ってきたのか!会いに来たのか!」

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