黄昏に香る音色
「全然してないんだろ!それで、恋人だと言えるのかよ!」

川上の叫びに、

明日香はゆっくりと、首を横に振った。

「恋人では、ありません。それに、連絡をしてこないのは…」

明日香は、ぎゅと胸を抱きしめ、

「あたしが…それを望んでたから…」

明日香はそう言うと、

深々と、頭を下げた。

「心配してくれて…ありがとう」

「香月さん…」

そのまま、去ろうとする明日香に、

川上は、最後の言葉をかけた。

「どうして、楽に生きないんだ!彼氏をつくったり、もっと遊びに行ったり…楽しくできないんだ!バイトと、トランペットの練習ばかりして!」

明日香は足を止め、

静かに振り返った。

「それは…あの人に近づく為。あの人の足手まといに、ならない為」

明日香は、笑顔を見せた。

それは、とても美しい笑顔。

「多分、あの人は毎日…練習してるはず。いつも、どこかで…。あたしが、毎日練習しても、きっとあの人には、届かない。だけど…これ以上、差をつけられたくないんです」

明日香の笑顔と言葉に、

川上は目を見張り、

やがて、うなだれた。

「好きなんだね…その人が…」

「はい」

明日香は嬉しそうに、頷いた。


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