哀しみの音色
俺はしばらく、彼女に魅入るようにその場から動けずにいた。
彼女の奏でる音色はとても綺麗で
だけどその分、胸が痛くなるほど悲しい。
そんな思いを抱えながら、彼女を見上げていた。
その時、ふと歌声が止まった。
ゆっくりと落とされる視線。
ばちっと目があった。
「あ……っと……」
「……また、会ったね」
彼女は、うっすらと笑った。
その笑顔はとても儚げで、雄太から聞いた噂なんて欠片も感じさせないほどだった。
彼女はスタッとジャングルジムから降りる。
そして俺の前まで来た。
「いつき……くん、だったよね」
「あ、ああ」
「あたしは莉桜……。水島莉桜」
にこりと笑う彼女の瞳は、やっぱりどこか悲しげだった。