哀しみの音色
 
「ねえ……」


しばらくして、彼女が口を開いた。


「お願いがあるの」
「え?」


その言葉に、俺は顔を上げて、耳をすました。



「名前……呼んでくれないかな……」




それは、あまりのも突然のお願いだった。


「え?」
「一度でいいの……。
 あたしの名前……呼んで……」


そういった彼女の目は、何かにすがるような悲しい目をしていた。

泣き出しそうとはまた違う。
もっと別の……もっと深い……。


俺は少しだけためらうと、真っ直ぐ彼女の顔を見た。

そして……



「………莉桜…」



たった一度、彼女の名前を呼んだ。
 
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