家族
 突然どこからか耳障りな笑い声が聞こえ、春夫は目を開けた。
 笑い声は隣の部屋から聞こえてくる。笑い声はすぐに何やら怒ったような声に変わり、一度悲鳴を上げたかと思うと今度は何やらぶつぶつ言い始めた。その笑い声が母のものだということを春夫は知っていた。
 春夫の母、梅は5年前のあの日を境に気が狂ってしまった。彼女の精神は娘の死に耐え切れなかったのだ。
 茜は、自殺だった。原因は受験に失敗したことだった。
 彼女は成績優秀で、周りからの期待も厚く、志望していた大学も合格して当然と言われ続けていた。それが彼女にとって大きなプレッシャーとなったのだ。その結果、第一志望の大学はおろか滑り止めに受けた大学まで不合格になったのだ。
 彼女の落胆は大きかった。しかし、それ以上に父の態度が彼女を追い詰めたのだろう。
 彼女の受験失敗に父は激怒した。怒り狂った父は、ショックを受けている娘に対し、「娘じゃない」だの「恥さらし」だの、あげく「死んでしまえ」と、思いつく限りの罵詈雑言を浴びせかけた。その言葉をすべて茜は泣きながら受け止めていた。彼女にはそれを受け流すほどの器用さもなかったし、またそんな心の余裕もなかった。 
 次の日の朝、貞夫が首を吊って冷たくなっている茜を見つけた。
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