家族
 貞夫は仏壇の前に座っていた。
 後ろで戸がかすかに開いた気配がしたが、貞夫は気づかない振りをした。特に理由はなかったが、恐らく春夫だろうと思った。背後の気配はしばらく自分を見つめているようだったが、やがて静かに戸を閉め去っていった。
 貞夫は茜の写真に意識を戻した。貞夫が姉のように慕っていた茜叔母さんは、今の自分と同い年のままの姿で、笑いかけてきた。
 茜が死んでいるのを見つけたとき、貞夫はしばらく動けなかった。
 ―前日、受験に失敗し落ち込んでいた茜は、その日なかなか起きてこなかった。きっとまだ落ち込んでいるのだろうと思い、貞夫は声をかけないでおいた。
 時刻は十時になっていた。その日は日曜日だった。茜はいつも休日でも七時には起きるようにしていた。その方が生活のリズムが狂わないからだという。昨日の今日なので、茜が部屋を出てこなくても不思議ではなかったが、昨夜の父の酷い仕打ちのこともあり、次第に貞夫は茜の様子が気になっていった。
 時計の針が十一時を指した。
 貞夫は胸騒ぎに耐え切れなくなり、ついに茜の部屋を覗いた。
 天井からぶら下がっているその物体を、貞夫はしばらく認識できなかった。そして、その物体が茜だと理解した後もしばらくの間、貞夫の精神は一切の活動を放棄したままだった。
 突然、涙がこみ上げ、絶叫と共に貞夫はその場に嘔吐した。全身がガタガタと震えた。立っていることも出来なくなり、その場に膝から倒れこんだ。打った膝の痛みが妙に冷静に感じられた。気がつくと、周りに次々と家族が集まってきており、それぞれ思い思いの行動を取っていた。貞夫の目に洋平の姿が映った。洋平が茜の姿を見て何か喚いている。昨夜の洋平の、茜を罵倒している姿が頭に蘇った。
 貞夫の頭の中で何かが弾けた。



 
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