家族
 仏壇の前で貞夫は目を閉じていた。
 強く閉じた両の瞳からは熱い涙が流れている。ここに座ると涙が溢れてしまう。あれから5年、毎日同じことを繰り返している。茜が死んだ悲しみは彼の心の中に深い傷となり残っていた。
 貞夫は目を開け、祖父、洋平の写真を睨んだ。

―洋平が吹っ飛んだ。貞夫は雄叫びのような声を挙げ、倒れている洋平に馬乗りになった。二発、三発と洋平の顔に力任せに拳を叩き込んだ。春夫が貞夫を羽交い絞めにした。手が使えなくなると貞夫は足で洋平を蹴り飛ばした。結局八州男も止めに入り、春夫と二人がかりで貞夫は洋平から引き剥がされた。
「殺してやる、お前なんか殺してやる!」
 唾を撒き散らしながら、貞夫はなおも洋平に食って掛かろうとした。
 洋平は倒れたまま動かなかった。そのまま洋平は起き上がる気配すら見せない。
 鈴江が洋平の元へ駆け寄り、起こそうとしたが、鈴江は洋平の顔を見るなり動かなくなった。
 洋平は泣いていた。
 その顔には威厳も何もなく、まるで子供のように堪えることもせずただただ泣いていた。
 貞夫は、再び動けなくなった。そして、どうしようもなくやるせない気持ちが心の底から押し寄せてきて、天に向かって咆哮した。
 貞夫の咆哮を期に、その場を泣き声と呻き声のみが支配した。



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