かえるのおじさま
「嫌いに……ならない?」

「ばかだなあ。そんなんで嫌うぐらいなら、女房になんてしない」

ギャロはその証のように、美也子をさらに強く抱き寄せた。
それは全てを受け止める覚悟の行為だ。

「食いもんの好みは毎日の問題だ。一緒に生活するのに、知らなきゃマズいだろ? だから、遠慮しないで言えよ」

「うん」

「食いもんだけじゃない。その他のことも、俺はお前の望むようにしてやりたい。だから、遠慮や、秘密は無しだ。それが夫婦ってもんだろう?」

美也子の胸がつくんと痛む。
秘密なら、自ら望んで作ってしまった。

ギャリエスとの打ち合わせでは、彼女が父親を連れて屋台を訪れる手はずになっている。
そ知らぬふりをして、兄弟を鉢合わせさせようと言うのだ。

それは、小さな友達と指切りを交わした計画なのだから、秘密にしなくてはならない。

だけど、それで良かったのだろうか。

……ギャロと身体を交わしたあの時、彼が佇んでいたのが墓所の入り口だった事は知っている。
大雨の中に一瞬だけ墓石の群れが垣間見えたのだから。
だが、彼は墓所に踏み入ろうとはしていなかった。

あの時……背中を押してやれば良かったのではなかろうか。

彼が母親への慕情と恨みの間で葛藤している事は明らかだ。
弟に会いに行こうとしない理由が、おかしく他人行儀な遠慮だということも知っている。

ならば、ただ一言、可愛い妻のおねだりという形で勧めれば、優しい夫は素直に弟を訪ねるのではないだろうか。
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