かえるのおじさま
だが、言葉が惑う。

秘密を誓って小さな指と絡めた小指の感触が思い出される。
それでも、彼は、夫婦で秘密は無しだと言った……。

ふわりと、若草に似た体臭が離れる。

「いいから、食っちまおう。ここから夕方にかけてが稼ぎ時なんだ。忙しくなったら、飯も食っていられないぞ」

ギャロの大きな口がぱっかりと、屈託のない笑いの形に開いた。
美也子も思わず、少しだけ笑う。

「ほら、これなんか美味いぞ」

渡された笹包みは温かく、温められたソースの香ばしい匂いが食欲をそそった。
開ければ、お好み焼きに似た外見。中身もそれに良く似ている。

キャベツではなく、数種の野菜。
それをしんなりするまで炒める。
合わせる肉は脂身の多い豚。
この油を野菜が吸い込んでうまみを増すと言う寸法だ。
卵を多めに混ぜこんだ小麦粉で、それらをとじて焼き上げる。

ヘラでかえしながら、片面は程よい狐色に、もう片面は色濃い焦げ目が模様をなすように加減し、その店ごとに調味された秘伝のタレをぽったりと塗って……笹包みを両手で抱えてかぶりつけば、口一杯に湯気が満ちた。

ふは、ふはと呼吸で温度を調整しながら、噛む。
奥歯の間で柔らかくつぶれる生地と、しゃっくりと断ち切られる野菜の繊維。
同時に、唾液を呼ぶソースの塩気、それを追う酸味、スパイスの香り。

「いい食いっぷりだ」

ギャロの長い舌がペロンと、美也子の頬についたソースを舐め取った。

「ちょっと、ギャロ! 人前で!」

「すまない、つい……可愛いから……よ」

隣の屋台から、ネロの野次が飛ぶ。

「あ~、あ~、あ~。胸やけがするほど甘いな、あんたらは」

確かにギャロは、でれでれに甘い。
ことあるごとに軽く身体に触れ、心を摺り寄せてくるのは甘ったれた幼子の所業だ。
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