かえるのおじさま
もしかしたら母親から得ることのできなかったぬくもりを求めているのかもしれない。

だとしたら、ここで秘密など作っては、彼を傷つけてしまうのではなかろうか。

「ねえ、ギャロ、話が……」

言いかけた言葉を、しかし、遮ったのは、小銭を差し出した幼子の声。

「一回」

「はいよ」

わっかを拾い集めるための細いカギ棒をとって、ギャロは立ち上がる。

「細かい事はいいから、食っちまえって。ちょうど、夕方からの奉納舞を見物しようとするやつらが到着する頃だ。本当に忙しくなるぞ」

カステアの祭りは一夜だけの祭り。
二晩、三晩をかける祭りとは違って、今日、この日に人出は集中する。

しかも付近、東西南北の村、合同で行われる祭りなのだから、その賑わいは半端では無い。

だだっ広いはずの会場は人で埋まった。
ギャロの屋台にも子供たちが押し寄せる。だから『秘密』を話す隙などなかった。

「あ~、くそっ! もう一回!」

小銭を差し出す子供に、わっかを渡す。
その作業自体は簡単なものだが、子供というのはちょっとした不正を思いついたりするものだ。

誰かが投げ外したわっかを拾って自分のものにしてしまったり、気づかれないように線を踏み越えようとしたり、それ自体は実にたわい無い。
目くじらをたてるほどのものでは無い。
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