かえるのおじさま
それも済んで馬車が動き出せば、今度は祭り稼業のための下準備が待っている。
馬車の中で、舞台の練習やら、備品の整備やら、ギャロのように細工を拵えたり、各々の仕事がいくらでもあった。

その日のギャロの仕事は、ネルと二人で屋台の幌を広げて、その繕いである。

そして美也子は、ギャロリエスの家から分けてもらった小布などを使って、裁縫の最中であった。
女の子向けの目玉景品を作ろうというのである。

ぬいぐるみなどが良かろうと、美也子は昨日から針を動かしている。
とはいっても裁縫は不得手であるため、いきなり大物をでは無く、手のひらほどの小さな物を練習用として作っているのだが、これは思ったよりも大変であった。

頭は布を引き絞って綿を詰め、丸く形を作る。そこに顔料で顔を書き、髪の毛になる毛糸を縫いつけた。
身体は、先に作った手足を縫いとめながらそれっぽい形にした。
胴体と頭を縫いとめれば、後はきれいな柄布で作った服を着せ付けるだけなのだが。

「う~ん……」

出来上がったのは、作った本人ですら可愛いとは言ってやれない代物だ。
首はぐらんとだらしなく揺れているし、手足の長さも不揃いで、ちぐはぐな感じがする。

ネルが、美也子の手元をひょいっと覗きこんだ。

「うわ、不っ細工だな」

実に素直な感想だ。
それだけに、美也子の心に深く刺さる。

「あんた、裁縫、向いてないんじゃないの?」

何かを言い返すでなく、ただ俯いて唇を噛む美也子の姿に、ネルはガリガリと頭を掻いた
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