かえるのおじさま
「あ~……ちょっと貸してみな」

彼は座りこみ、針と糸を取った。
小さな針穴に、すいっと難なく糸が通る。

「何も、現実の生き物をそのまんま作らなくてもいいんだ」

布を手に取った彼は、針を動かす。
それは見事な手付きだ。

美也子が動かす針はザク、ザクと音をたてたが、ネルの手元で泳ぐように動くそれはスイ、スイと布目の間をくぐる。

あっという間に、二つの布団子が出来上がった。

「だいたい、型紙無しで複雑な形をつくろうってのが間違ってる。そういう時は、形を簡単に、単純にしちまうんだよ」

二つをつなげれば、それは胴体と頭に見えた。

彼はさらに、耳になる布を足す。
それもわざわざ縫い合わせるのでは無く、折りたたんで三角形にした布をちょいちょいと縫い止めると言う、心憎い技術だ。

「針を動かす回数が減るだろ?」

さらに小さな布の玉を四つ作り、手足の位置に縫いとめる。
余った糸の端でちょいちょいと目鼻をつけ、髭を刺せば、ころころと丸っこい猫が出来上がった。

「これなら耳の形を変えるだけで犬でも、豚でも作れらあ」

呆然と針の動きを見守っていた美也子の手の中に、ぽん、とその人形が渡された。

ギャロも賞賛の声をあげる。

「相変わらず器用だなあ」

「へへへっ、まあ、このくらいは、な」

「美也子、目玉の景品は、ネルに頼んじゃあどうだ。間違いない物を作ってくれるぞ」

そう言われて、美也子は狼狽した。

「いえ、ちゃんと練習するし、がんばるし……」
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