かえるのおじさま
「俺はそんなに頼りないか? お前を守ってやることも許されないほどダメ男か?」

「そうじゃない。ギャロのことはとっても頼りにしてる!」

「じゃあ、なぜ俺を拒もうとする!」

「拒んでなんかいない! ただ……」

いさかいの真ん中に、紫煙を上げる長煙管が差し挟まれた。

「さっそく痴話喧嘩かい。いい加減にしなよ」

「座長、あんた!」

蛙口をぎゅっと歪めて不平を溜める男に、のっぺりとした両生類顔が微笑みかけた。

「言いたいことがあるんなら、全部言っちまいな。今のうちなら聞いてやるよ」

ギャロの目玉はいつも以上にぎょろりと、睨むように座長を見下ろす。

「あんた、美也……ミャーコになんでストリップなんかさせた」

「そちらのお嬢さんが金が必要だって言うからねえ、効率のいい稼ぎ方を教えてやっただけさ」

「ぐうっ。だからって……」

「あんた、言ってたじゃないか。この子とは何も無いって。それが今更、なんだい?」

「あれはウソだ。謝る」

いや、今から言おうとしていることこそ、ウソだ。美也子に否定でもされればおしまいの、脆すぎる虚偽。

「俺とミャーコはいずれ一緒になろうと約束した仲だ。だから、ああいうのは困る」

「別に嫁にしたからって、男が女の全てを好き勝手できるわけじゃないよ。思い上がるんじゃあないさね」

それにキッパリとした声で答えたのは、驚くことに美也子であった。

「好き勝手をしたのは私のほうです。本当はちゃんとギャロに相談するべきだったのに、黙っていたのがいけないんです」

「ふうん?」

「あ、と……舞台に穴を開けてしまってごめんなさい」

「全くさね。ギャロ、あんたは後で私の馬車に来な! たっぷりとお小言をあげるよ。先にミャーコ、ちょっとおいで」

呆然とするギャロを残して馬車を降りれば、光虫が幾匹か足元から飛んだ。
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