かえるのおじさま
座長の馬車は少し離れて停められている。
それは他に比べて特に大きなものではない。

「まあ、あんたら乗り合い組と違って、これは私の持ち物だからね。車輪がついてガタゴト言う以外は『家』さね。だから気楽にしておくれ」

きちんと戸板のついたドアを開けて、座長は美也子を中に招き入れた。

中は座長と二人の子供のための簡易なベッド、馬車用の作り付け式のたんす、お茶用の小さなキッチン。
暮らすに不便無くしつらえられている。

ベッドに子供のものであろう、薄汚く擦り切れたラグドールが転がっているのが、生活を感じさせた。

「素敵ですね」

「そうかい? そりゃあ、ま、そうだろうよ」

柔草で編んだ座布団を薦める両生類頭は得意げに鼻先など上げて愛くるしい。
美也子の鼻先から柔らかな笑息が漏れた。

「笑わない! 一応、怒られに来たんだろ!」

「は、はい!」

座を正す美也子に向けて、今度は座長が笑息を吐く。

「あんたは素直だねえ。ギャロがイカレちまうのも解かるよ」

「えっと、ギャロとは……その、あの……」

ここで否定しては、せっかく自分を庇おうと偽の婚約までしてくれた彼を、貶めることになるのではないだろうか。
かといってこのままにしておけば誤解は深くなる。
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