かえるのおじさま
あんなに泣いたからだろうか、眠りが浅い。

指先まで重く感じるほどの眠りに体は支配されているのに、ぼんやりと覚醒した意識は彼の寝息を感じている。

薄く目を開けば、いびきに揺れる大きな胸があった。

濡肌種である彼の体温は少し低い。
だが、心地よい温度だ。

偽とはいえ、夫婦となった初めての夜なのに、何も無かった。
今こうして抱きしめてくれているのも、父のように安らかな愛情で、なのだろう。

(お父さんってほどの年じゃないし、お兄ちゃんって呼ぶのも微妙かな)

明日から、なんと呼ぼう。

(「あなた」って呼ばせては……くれないんだよね)

だから「ギャロ」。
今までと変わらない呼び方。

それでも心は少しだけ近づいたと、そう思いたい。

だって、今までよりも近くに彼の呼吸を感じる。

どうせもとの世界に戻れないのなら、ゆっくりでいい。
少しずつ彼の心に近づいていこう。
いつの日か、本当に妻として認めてもらえるように。

(少し寝よう)

そうと決めたなら、明日から色々とやることがある。

まずはこの世界のことを覚えなくてはならないだろう。
言葉も、文字も、風習だって、学ぶべきことは色々ある。
この旅座の中できちんと生きていくための手立ても。

少し沈み始めた意識の中に、いびきの音が心地よく響く。

(お休み、ギャロ)
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