かえるのおじさま
その村に着いたのは、祭りの二日前だった。

盛夏の折、田畑は見事な濃緑に包まれてはるかに広がり、その合間に大きな藁葺きの家が、綽然と立つ。

一座の係留のために貸し与えられたのは、当日は祭りのメイン会場となる予定の、村はずれの広場だ。

いつもはだだっ広いだけであろう草地はきれいに刈り込まれ、村の若い衆が中央に大きなやぐらを立てている最中であった。

月の神を象徴するちょうちんで飾り付けられたそれは、美也子にとって馴染み深い祭りを思い起こさせる。

「盆踊りみたい」

馬車から降りてくすりと笑えば、先に降りていたギャロが不思議そうに訊ねる。

「ボンオドリ?」

「やぐらの上で、着物を着た人が踊ってね、下でもみんなで輪になって踊るの」

「へえ、そりゃあ楽しそうだ」

この祭りでも踊りはある。

ただし、やぐらの上で神に奉納する舞を、神官たちが踊るのだ。
下で眺める者たちは、やんやの囃子でそれを盛り上げる。

「農耕の神である月は、賑やかなのが好きだからな、派手に盛り上がれば、その年の豊作が約束される」

「ふうん。向こうではお祭りって言うのは、豊作にしてくれてありがとう、ってのが多いのよ」

「じゃあ、豊作じゃない年は祭り無しなのか?」

「そういうわけじゃない……と思うけど」

別に宗教に詳しいわけでも、民俗学に明るいわけでもないのだから、詳しい説明をすることなど美也子には無理だ。
< 59 / 147 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop