かえるのおじさま
「や、俺だって、それなりに女とは付き合ったけど、慣れてる、とかじゃない」

「それを私に弁明して、どうするの?」

ギャロが凍りついた。

……全くだ。
どんな女性遍歴があろうと、偽の妻である美也子には関係ないことではないか。

正直、女などいくらでも抱いた。
中には体だけではない恋もあったはずだ。
そのいずれとも違う気持ちを、今、感じている。

美也子は、怖い。
触れてしまうのが怖い。
抱いてしまうのも怖い。

いずれ失う女だと解かっているから、これ以上の情を抱くのが怖い。
誤解されて、心離れてしまうことはもっと怖い……

道の真ん中で、二人は向かい合って立ち尽くしていた。
強すぎるほどの陽光に焼かれて、伝えるべき言葉が焦げ付く。

(この女が……欲しい)

今まで恋したどの女にも、こんな気持ちは感じなかった。
だから、恋じゃない。

性欲の処理のためでもない。
やたらと熱いだけの、欲情。

(この気持ちを、どう伝えればいい)

それがなんなのか、自分でも良く解かってはいない。

こんな曖昧な、暑苦しいだけの気持ちを伝えても良いのか?

そよと、僅かな風が熱気を吹き飛ばす。
麦穂の間を渡ってきたからだろうか、すいと薫る青臭さが言葉を押し上げた。

「美也子、俺は……」

風に揺すられた麦がかすかな音を立てる。
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