あの日まではただの可愛い女《ひと》。

クリスマスを少しだけ。side A

「桜さん、クリスマスイブはどうするの?」

 最近、微妙にイロイロ悩んでいる桜さんに、一応ダメだろなって思いつつ聞いてみた。
案の定回答は、思わしくないというか、俺と何かイベントするって言うのは避けてくる気配。電話だから表情見えないと思って油断してるんだと思うんだけど、結構声聞いていれば、桜さんの場合何考えてるかは見当がつく。
 だって、嘘やごまかしを言おうとするときの気配が声の方が明確だから。

 でもちょっとでもクリスマスっぽいことをしたいのが微妙な男心。
 そういうわけで、一計を案じることにした。
 まぁ、桜さんの場合、食い気でつれば大抵喰らいついてくるんだけど(爆)

 そんなわけで俺は、クリスマスマーケットに桜さんを誘い出すことに成功した。


 まぁ結構ちょろい。ここまでは。



 二人でクリスマスの思い出とか、話しながらマーケットを回った。
 桜さんの家は意外に、日本風って言うか庶民派って言うか、まぁ適当なかんじで、お祝い事のときは
手巻き寿司や、チラシ寿司を作る家みたいだ。
 クリスマスはそれにケーキが最後に出てくるらしい。あったかいチラシ寿司ってちょっと変わってておいしいよとか、西の方だと蒸すって言う風習もあるみたいとか、本当に食い物に関してはこの人、妙なことを知っている。
 そんな話をしながらグリューワインをパカパカと呑んでしまった。
 結構、温めてるからアルコール分飛んでると思ったら意外に、効く。

 桜さんは珍しく、3杯くらいでちょっと瞼が重い感じというか、しゃべり方もゆっくりになってきていた。きっとイロイロ最近考え込んでること多いから、疲れてるんだろうなってかわいそうに思ってしまう。
 かわいそうにとは思うんだけど、少しは俺のことを考え出してくれたのかという歪んだうれしさも実はあった。それもあって、クリスマスはもっと俺のことを意識してほしくて少しでも味わいたかった。

 桜さんは、俺のコートの袖を掴んで、甘えてきているんだけど、あんまりそれには気がついていないというか、多分酔って、防波堤のようなものが薄くなっている。温かくて少し甘い柔らかさのあるそんな桜さんの身体を、俺は楽しんだ。
 桜さんは、すごくかわいいオーナメントや、なぜかクリスマスリースを2個買ったりしていた。

 そっくりなもの2個かってどうするんだろう?

会社の仲のいい友達にあげるのかな?とか思って、そういうところは女の子っぽくってかわいいなって思った。

 俺はマーケットで軽く食べれそうなものをいくつか買って、眠そうな桜さんを連れて俺の家へと帰った。まぁ電車で一本だし、そんな遠くないしね。
 眠そうな桜さんは、ソファーに座ってぐったりしてたので、支えてベッドに寝かす。
そのときに彼女のバッグが倒れて中身が少し出てしまったので、寝かしつけてから元に戻そうとしたら、明らかにプレゼントっぽいものが見えた。

 ああ。そうか。
 彼女はクリスマスが終わるまでは俺とは会わないつもりで今日来たんだな。

 簡単に酔っ払った桜さんのことを考えると、きっとそういうこと決めてストレス感じていたのかもしれない。気持ちはわかるけど、しばらく会えそうもないことに俺も少し落ち込んだ。

 すごく良く眠っていたけど、桜さんは2時間足らずで起きてきた。
 ふたりで、俺が買ってきたものと、桜さんが申し訳ないって簡単なコンソメのスープとか、きのこのマリネとかを作ってくれたので夕飯にした。俺の家のクリスマスメニューに出てくるものと、桜さんの家で出てくるメニューに近いものをさり気にそろえたんだけど、気がついてくれたかな?

 そのあと、俺も疲れてしまって、桜さんを抱え込んで一緒に眠った。珍しく素直に居残ってくれたから、やっぱりクリスマスが終わるまでは会うつもりがないんだなってことを再認識してしまった。
 だからなのかも知れないけど、珍しく彼女がいなくなったのにも気がつかなかった。

 朝起きて、リビングにプレゼント以外に、彼女のメッセージと、彼女が買ったクリスマスリースが置いてあって、ああ、これは俺のために買ってくれたんだって少しだけ胸が温かくなった。

 少しだけ俺と一緒のクリスマスを過ごしたって意識してくれれば今はそれでいいよ。
 そう思って、俺は扉にリースを飾り付けた。
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