あの日まではただの可愛い女《ひと》。
「好き、すき…。葵がすき。だから、おねがぃ…服ぬが…せて」

 もどかしい快感に負けて、桜が声を上げる。
 好きだから境界をなくすように、ぴっちり触れ合いたい。お互いの間に邪魔な布地はいらない。そう思って自分で葵のシャツのボタンを何とかはずそうとして力が入らないので換わりにパンツから引きずり出す。桜のそんな様子を笑って葵がまた唇にキスをする。

「んん――」

 抗議の代わりに声を上げると、葵が片手で器用に自分でシャツのボタンをはずして、脱いで床に落とす。くちゅっと唇と舌をこすり合わせて、唾液をすすりあう。葵がその表情を見ようとしてキスをやめる。キスの気持ちよさにぼーっとなって、離れていこうとする葵の唇が惜しくて桜が抗議の声を上げる。

「も、もっと…もっと葵…」

 膝をゆるく曲げて、桜が葵の腰に自分の足を擦り付けるようにねだる。葵はそこに手のひらを使って膝小僧を円を描くように愛しんでから、太ももに指を滑らしてウエストへ――。
 スカートを緩めて、ゆっくりと脱がせた。
 ずり上がったブラジャーから覗く白い胸に、だらりと垂れたガーターベルトと、ショーツ。切なそうに葵を見やる桜の表情に、胸が突かれるような気持ちがわいた。手に入れたはずなのになんだか現実味がなくて少しだけ不安になる気持ち。桜の様子を眺める葵に、桜が両手を緩やかに広げて迎え入れようとする。
 迎え入れられる腕に素直に従ってから、背中に手を回して、パクンとブラジャーをはずした。背中に感じるひんやりした桜の腕が気持ちいい。

「桜さん、好きですよ」

 耳の中を舐りながら、葵が濡れた声でつぶやく。

「ひぁっ…。ひ、左はだめぇ……」

 まだ直に秘部には触っていないが、もどかしくて膝を葵の体に摺り寄せてきて、桜が涙声で訴える。左耳の方が桜が弱いのは、桜を初めて持ち帰ったときに発見した。

 ――ああ。あれからまだ半年もたってないのか。そう思うと長いような短かったような…。

 そういう思いでくすりと、笑ってしまう。

「ぁうっ」

 まだ耳を舌でぐちゃぐちゃとかき回してたため、そんな刺激にも桜が反応する。吐息をかけるだけで、胸がはじけるように反応して、葵の体を掠る。そんな刺激にも、快感を感じるのであろう。段々桜のあえぎ声が小さくなって、かふっとか、はふっという吐息のようになっていく。

「ふ、まだ、全然触っていませんよ?」
「ぃ……ぃじ、わるぅ」

 やっと、そんな言葉を搾り出す。真っ赤になって、涙目の桜が可愛くて、葵は思わず首筋に唇を埋め込んで噛む。

「……ぁぅっ…」

 首筋を齧ったり舐めたりしながら、手の甲で、ふわりと鎖骨から胸のふくらみ、わき腹、腰骨を撫でていく。それからショーツの端から指を突っ込んで、太股との境界をショーツの端をたどるように撫でる。

「んぁ」
「なんていうか、すごい喜んでくれてうれしいですよ」

 ショーツはすでに重く、濡れた感触に葵は笑いを禁じえない。

「んんん。ば、ばかぁ…」

 ゆっくりとショーツとガーターベルトを引き落とした。ついでに葵はパンツのベルトをはずして、自分も着ているものを床に落とす。桜の手が背中から腰骨に下りてきて、腰を撫で上げる。やっと二人の間にさえぎるものがなくなって、桜が吐息をつく。

「ん――」
「桜さん。あせんないで」
「で、も。でも…」

 焦れて葵にキスをねだるように顔を寄せてくる。葵は快感にじれて膝をすりあわしている桜の太股に手をねじ込んで、足を緩めさせた。

「ぁ……」

 やっと直接自分の中心を触ってもらえた快感と、安堵に桜が小さく声を発する。ただ一瞬後に、葵が秘芽に触れるか触れないかという距離で指を這わせたことでそれが抗議の声には変わった。

「ん、んん」

 膝頭を、葵のわき腹をこするようにして、桜は葵に体をさらに摺り寄せる。

「桜さんの足、キモチイイ…」

 わき腹に当っている足に刺激されたのか、葵の目が少し潤んだような情欲にさらに染まっている。

「煽るから……。ゆっくりしようと思ったのに…」
「んっ!ぁぁっっ」

 葵がゆったりした愛撫をやめて、いきなり蜜口に指を突っ込む。親指で秘芽に蜜を塗りたくるようにしながらなので、衝撃はあるが、快感の方が強い。

「ふっ……ぁぁぁん」

 くちくちと、蜜口をほぐしながら、葵が桜にキスを贈る。桜が腰をゆするので、葵の胸に桜の胸が擦れて、気持ちいい。最初一瞬だけ抵抗をしたあと、指は簡単に桜の中を抉る。指を増やして、桜の弱い箇所を葵は指を折り曲げながら擦った。

「っく。やっ……」
「桜さん、きつい?」

 ううんという声を微かに立てて、桜が首を横に振って涙にぬれた目で葵を見つめる。

「一人は…いやなの」
「相変わらず一人でイクのがいやなんですね」
「ふぅっ…っさ、さみしくなっちゃ…んだも…ん」

 一人でイキそうで、それがつらいのか葵の首筋に桜が顔を埋めてくるようにキスを落としてすがる。一度か二度イった方が絶対に楽なのになと、葵は少しだけため息を落として指を引き抜いた。

「ま、この点も今後の課題デスカネ。ちゃんとすぐ傍にいるって、わからせてあげますよ」
「はぅっっ」

 指を抜かれて寂しくて、体をゆする桜の頭と髪を撫でて、葵は自分のものを桜の中に埋めるべく、蜜口に当ててゆっくりと腰をゆすった。

「ひぅ…」

 ずっと埋まってなかった空洞にピタリとはまるように葵のモノが入ってくる感触に桜はうっとりとため息をこぼした。これが足りなかった。蕩けかけた思考の中でそう思う。象徴として、そう思い至ったということに気がつく。ずっと葵が欲しかった。今まで何度もこういうことをしてきたけど、桜はそれに気がついていなかった。
 寂しくて寂しくて、それにずっと気がつかない振りをして暮らしてきた。足りないものが何なのか、足りないこと自体に気がついても、どうやって探せばいいのかもわからず、ずっと今までやってきたことを悟る。気持ちが重なったところでこうなると、足りなかったものが明確にわかる。
 葵が、細かくゆすった後に、ズっとグラインドさせて、さらに桜を煽った。

「ん。桜さんの中――熱くて、絡んできて、キモチイイ」
「…ぅっ、あぁっっ」

 葵のものがさらに桜の奥をつつく。自分のとても感じるところに葵の熱くて硬いものに触れられて、グシュっと言うような感触を、体内に感じる。
 どちらも頂点に辿りつくのはもうすぐな予感がして、桜は葵にさらにしがみついた。



 はぁはぁと、どちらの息かもわからないくらい登りつめたあとに、お互いの息さえ奪い合うようなキスを交わして見詰め合う。

「葵が好きだって気がつけてよかった。――ね、ずっと一緒にいてくれる?」

 少しだけ息が整ってから、涙の浮かんだ目で葵を見上げて桜が小さく言った。返事の代わりに葵は微笑んで桜の指にキスを落として、桜の中にいる自分をまた動かしだした。
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