水没ワンダーランド
そして放課後。


「…あぢぃ」


山本が制服の襟をつまんでバタバタさせている。

那智も額を流れる汗をぬぐった。


「なんだこの暑さ……長袖いらねえじゃん」


「まだ四月だぜ?!天気予報じゃ最高気温でもたかだか16℃って…」


「え!?山本って天気予報見るのか?!」


「なっ…!見るよ!どこに驚いてんだよ失礼だな」


野球部特有の丸刈りが似合うナカジはからからと笑った。


それにしても、暑い。
これは30℃以上あるのではないか。

山本の言う通り、まだ四月にも関わらず真夏のような気温だ。


しかも、ここ、池袋に降り立ってから一気に気温が急上昇したような気がする。

学校に居るときはまだ肌寒いくらいだったのに。


「あづい…」


「お?那智もギブアップか?お前ら日差しに弱ェなあー」


さすが二年間、真夏の炎天下で練習を続けてきただけはある。
ナカジは余裕の表情で通りを歩いている。


「でもよお……これはちょっとヤバいんじゃね?」

ダラダラと汗をかきながら歩く山本の視線の先には喫茶店の内側が見えるガラス。


中にいる誰もがハンカチを手にしていたり、ぐったりとしている。

突然に襲ってきた猛暑に耐えきれず、喫茶店に逃げ込んだんだろう。


季節に似合わない、異常な雰囲気が喫茶店には満ちているように見えた。


「異常気象かぁ。このままだと地球はどうなるんだろな」


きっとなぜ地球温暖化が起こるのかということもわかっていないだろう山本が(科学の授業で「温暖化?みんなで空に向けてエアコン使えば解決するじゃん」という山本の発表は秀逸だった)、つぶやいた。

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