水没ワンダーランド
「まあまあ。映画館ついたら涼しくなるだろ。それまで辛抱だ」


ナカジが笑った。
年中変わることないその日焼けした肌が非常にたくましく見える。


「なぜ池袋の街の真ん中で死にかけにゃならんのだ」


「恐ろしいぜコンクリートジャングル」


わけのわからないセリフを吐き続ける那智と山本。

もはや暑さも限界だった。


「ナカジー…ちょっとどっか店入ろうぜー…」


「でもあいつら待ってっから先に映画館行こうぜ。ってか…おま……自分が待つ側の時はそういうのすげえ怒るくせに…」


ナカジに呆れられて、山本はガックリとうつむいた。

あいつら、と言うのは他の四人のことで。

誠実そうなナカジの周りには様々な系統の友達が非常に多い。

今回も映画に行こう、と思い立ってすぐ七人もメンバーを集めることができたナカジだった。


「なあ那智、お前も休みたいよなあ?」


「あと5分もねえだろ」


「血も涙もねえ……」


山本のつぶやきが聞こえた。
どうやら山本は暑さにすこぶる弱いらしい。


(暑いな……あれ?)


つう、と那智の額に汗がつたう。

視界がブレ始めた。


暑さのせい?


しかし何かがおかしい。


(教室のときと、一緒だ)



ちらつき、ブレる視界。


ザーッという耳障りなノイズ。

まるで誰かが那智の頭の中に手をつっこんで、テレビのチャンネル合わせをしているような。


那智は戦慄した。

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