水没ワンダーランド
「色が消えて、時間が消えた」


「ああ、わかってる」


「僕たちの世界となちたちの世界がシンクロしてる証拠」


「それも、聞いた」


「それと、なちたちの世界の人たちの中に、僕たちの世界の存在に気付き始めた人がいる」


猫が首の揺らめきを止めた。もったいぶるように息を吸い込む。


「それも、いっぱい」

「……」

「僕たちの世界に流れ込んでくる人たちは日に日に多くなってきた」



那智は、嫌な予感がした。
突然、あの、池袋駅で90人が消えた事件を思い出したのだ。


(じゃあ、あれも…もしかして……)


「この世界からそっちの世界に、人間が流れ込んでいったせいで……異変が起きてる?」


「そう」




お互いの世界は干渉し合ってはならないとクイーンが言っていた。

そして本来ならば、お互いの世界の存在すら知り得ることもない。

そのルールが崩されたときに、両方の世界に歪みが起きる。



この色彩や音の消失は、その歪みが具現化したものらしい。





世界が、崩壊しかけている。




「その、原因は?」

「わからない」



猫が縫い付けられたニッコリ顔のまま肩をすくめた。


一拍おいて、だから、と猫が付け足した。


「なちの出番だよ」


約束を果たして頂戴―――…クイーンの言葉と猫の言葉がダブる。

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