水没ワンダーランド
「…っはぁ、…はっ……」
那智は胸いっぱいに酸素を吸い込む。
まだ撒き散らされた腐乱臭が辺りに残っていて、むせかえりそうになる。
「…けほっ……けほっ」
隣を見れば、女の子も大体那智と同じ状況にあったらしく、懸命に呼吸を整えている。
二人とも過呼吸になりかけながらもなんとか平常な呼吸と動機を取り戻したころ、背後から声がした。
「どこに行ってたのさあー那智ー」
必要以上に語尾を伸ばす特徴的でどこか間の抜けた声には、聞き覚えがあった。
「チェシャ猫…!?」
猫は巨大な頭をぐらぐら揺すり、四ツ穴ボタンの目で那智を見下ろしていた。
那智たちを雑木林に引っ張りこんでくれたのは、チェシャ猫だったらしい。
「お前……っさあ!どっか行ってたのはどっちだよ!?」
きっと感謝されるものと信じこみ、ゆらゆら楽しそうに頭を揺らせていた猫の頬を那智はつねり上げた。
「痛い痛いいたーい」
半信半疑だったが、どうやらチェシャ猫の頭にも痛覚はあるらしい。
セリフはいつもと変わらず棒読みだったが。